画家ウィリアム・ターナーの人生
絵画を集めるのは得意でも、描くのは苦手と形容されるイギリスにおいて、ターナーは国家を代表する画家で、ロマン主義に属し、西洋絵画史においても本格的な風景画家の先駆者の1人とされています。
本名はジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーといい、1775年にロンドンのコヴェント・ガーデンで生まれました。この町は、映画「マイ・フェア・レディ」でオードリー・ヘップバーンが歌っていた舞台になっており、現在も大道芸が多く行われている観光スポットととしてにぎわっています。
父は理髪師であり、母は精神的な病気によって十分に子供の面倒を見ることができない状態でした。ターナーは学校教育を受けることもほとんどない状況で幼い時代をすごした後、13歳になると風景画家のトーマス・マートンに指示して絵画を学びました。
その後、1年ほど経過してからロイヤル・アカデミー附属美術学校に入学し、1797年にはロイヤル・アカデミーに初めての出品を行います。2年後の1799年には24歳にしてロイヤル・アカデミー準会員、1802年には27歳で正会員となっています。
幼少期には恵まれた環境では育っていなかったと考えられるターナーですが、画家としての成功は若いうちに収めることができていました。1803年の「カレーの桟橋」や1812年の「アルプスを越えるハンニバルとその軍勢」ではロマン主義的な表現がされています。
しかし、そのまま波風が立つことなく画家としての人生を歩んでいたわけではありません。44歳になったターナーは、1819年にイタリアへ旅に出ます。当時のイギリスの画家にとって、イタリアという西洋美術の中心となっている場所へ行くことは憧れとされていました。その中でも、ベネチアは特にお気に入りの場所となり、それ以降にも幾度となく訪れています。イタリアを訪れたことは、画家としてのターニング・ポイントになったと考えられています。
イタリア旅行に行ってからは、曖昧な描写が増え、光や大気がもたらす効果に重点を移していく傾向が見られるようになっていきました。1842年に描かれた「吹雪-港の沖合の蒸気船」はそのような傾向を色濃く反映しているのですが、当初は酷評されることとなりました。
なお、ターナーは主要作品をイギリスに遺贈しています。そのため、ロンドンにあるテート・ブリテンやナショナルギャラリーで多くの作品を見ることができます。これらの美術館は充実した名作を数多く展示しているにも関わらず、入場料が無料です。ロンドンを訪れた時には、ぜひ足を運んでみてください。
テート・ブリテンのターナー・コレクション
世界的に見てもターナーの作品が充実している美術館として、ロンドンのテート・ブリテンがあります。イギリスといえば大英博物館があまりにも有名であるために知名度がそれほど高くはありませんが、イギリスの中でもトップクラスの美術館です。
近代美術を集めたテート・モダンが独立して別の美術館になって以来、テート・ブリテンは名画の集まる美術館として雰囲気も統一されています。色々な画家の絵が集められていますが、その中でも数多く揃えられているのがターナーの作品群です。
実際に訪れた時に感じたことですが、他の画家の絵画が前置きになっていて、ターナー・コレクションがメインになっているような印象を受けました。もちろん、捉え方は人によって様々ですが、個人的にはこの時にターナーという画家を好きになりました。
小さな作品から本格的なものまで揃えられていますので、ロンドンに行くときにはぜひ立ち寄っていただければと思います。
ターナー作品が集まるロンドン
テート・ブリテンに加え、ナショナルギャラリーにも作品が収蔵されていますので、ロンドンはターナーの作品が集中する都市となっています。世界中に点在してしまっていると、ファンとしては見て回るのが費用的にも時間的にも負担となりますので、一箇所に集まっているのは嬉しい限りです。
なお、テート・ブリテンとナショナルギャラリーは地下鉄やバスを使って移動すれば、一日で両方を見て回ることができる距離です。ロンドンはそれほど大きな街ではありませんし、公共交通機関が充実しているため、効率よく移動すれば名所を見て回るのにあまり時間はかかりません。
ロンドンの場合には美術館が充実しているだけではなく、世界レベルの博物館も数多く揃っています。かの有名な大英博物館だけではなく、マダム・タッソーろう人形館、庭園史博物館、自然史博物館、ビクトリア・アルバート博物館、イングランド銀行博物館といったものがあります。
ロンドンの美術館や博物館は無料で見ることができるのも嬉しいところです。そのため、時間がない方であればそれぞれのメインとなる作品だけを見て回ることもできますし、気に入った作品だけを別の日に見てから別の場所に向かうという使い方もできます。
旅行においてロンドンが見所の多い都市であることはもちろんですが、長期滞在や住むのにも適しているのではないでしょうか。大小合わせて文化的な施設が待ちの至るところに点在していますし、ケンジストン・ガーデンやハイド・パーク、セントジェームス・パーク、リージェンツ・パークといった大きな公園もあるため、自然に触れることもできます。
かつては食事がまずいことが有名でしたが、いまやロンドンは世界中の料理が集まる国際都市となっており、グルメの面でも満足できる街となっています。物価はヨーロッパの中でも高めですが、その価値は十分にあります。
ターナーの道をたどる
ヨーロッパを訪れた際には、多くの作品があるロンドンだけではなく、ターナーが訪れた街をたどってみるのも旅の形の一つでしょう。思い入れがない方にとっては退屈ですが、ファンには嬉しいものです。かつて画家が見た場所を自分の目で確認して見比べてみるのは、絵心がない方であっても新鮮な発見があるはずです。
時代が変われば景色が変わってしまうのは事実ですが、かつてターナーの見た風景を眺めることができるのは、感慨深いものではないでしょうか。